おつかれさまです、猫田です。
商品を製造・販売する企業であれば、精度や重要度の違いは各社あれど販売計画や製造計画を立てているかと思います。
それら計画のベースとなるのが「需要予測」。
ここをどれだけ理解できているでしょうか。
需要は多くの要因で変動します。
この不確定な需要を予測するために、様々な需要予測手法が考えられてきました。
完璧なものはありませんが、各社各商品の特性にあった手法を選択し、都度見直しながら精度を高めていくことが重要です。商品の需要予測がある程度の精度でできれば、製品の製造計画や原材料の調達計画を精度高く計算することができます。
そこで今回は、「需要予測」をテーマにどのような手法があるのかを例を用いて解説していきたいと思います。
需要予測とは
「需要予測」という言葉を聞くとある程度はイメージがつくと思います。
しかし、場面によって使われ方が若干異なることがありますので、この記事における需要予測の定義を説明します。
需要予測とは
需要予測(Demand Forecast)とは、「市場における特定の商品(製品やサービス)の、販売数量の推定値を出すこと」です。
なお、「フォーキャスト」という言葉もあいまいに使用されがちですが、本来の意味は「予測・予報」であり、それが販売数量などの文脈で使用されれば「需要予測」と同義となると考えられます。
需要予測はあくまで予測であり、そこに「意思」はありません。
これが、「販売計画」との大きな違いとなります。
需要予測の目的
需要予測の目的は様々ですが、企業経営においては大きく以下の2点が目的となると思います。
・過剰在庫のリスク回避
・販売の機会損失削減
ひと言で言い換えると「過不足のない適正な在庫を確保すること」になります。
需要予測の方法
それでは、需要予測にはどのような方法があるのでしょうか。
冒頭でも述べた通り、需要予測に完璧なものはなく、その時その時で最も適した手法を選ぶ必要があります。
まずは、需要予測の方法について、大きく3つに分けて解説します。
人の経験に基づく方法
いわゆる「経験と勘」による判断です。
このように表現すると、旧時代的な考え方として悪く思われがちですが、需要予測においてはまだまだ捨てたものではありません。
理由はこの後の説明にも関係しますが、需要予測に確かな方法がなく、AIにとっても苦手な領域である、ということがあげられます。
しかしもちろんデメリットもあり、その手法が属人化してしまい改善が難しい、という点があります。予測精度をチェックし評価・フィードバックをしながらであれば運用していくことは可能です。
統計的手法の活用
過去のデータと数式を用いて、将来の数量を予測する方法です。
ツールとしては、エクセル等の表計算ソフトウェア、専用のシステム、等の使用が考えられます。
その手法としては、算術平均法、移動平均法、指数平滑法、ホルト・ウィンタース法など様々なものがあります。
代表的な具体例を、この記事後半の「需要予測手法」で紹介します。
AIの活用
近年注目されているAIは需要予測にも活用されます。
しかし、AIは万能ではなく、また環境が刻々と変化していくなかで予測をするということはAIの得意分野ではないということにも注意が必要です。AIが需要予測を得意ではないとする根拠の一つに、「過去の膨大なデータの陳腐化が早い」ということが挙げられます。
やや否定的な意見を述べてしまいましたが、需要予測にAIを活用できないというわけではなく、過信せずに利用することで効果を発揮することは間違いありません。AIによる需要予測モデルは様々あり、その結果の妥当性について評価・フィードバックをしていくことが必要です。
本記事で用いるサンプルデータについて
本記事では、各需要予測手法についてイメージを深めていただくために具体例を用いて解説します。
そこでサンプルデータとして、2020年1月~2022年12月の実績値(単位はあえて定めません)を作成しました。
年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2020年 | 120 | 110 | 110 | 100 | 90 | 95 | 80 | 80 | 75 | 100 | 90 | 110 |
2021年 | 130 | 110 | 105 | 100 | 95 | 95 | 85 | 85 | 90 | 100 | 105 | 115 |
2022年 | 140 | 115 | 110 | 105 | 90 | 100 | 90 | 95 | 100 | 105 | 125 | 165 |
現在が、2022年12月31日というイメージを持っていただきそれまでのデータは実績値として持っていると考えてください。そこで、2023年の1月、2月、3月の販売数量がいくつになるかを各需要予測手法を用いて計算します。
サンプルデータからは、季節ごとや年ごとのデータをみると、ある程度の傾向も読み取れるかと思います。
それらから予測した値が「経験や勘」にあたる予測になりますので、データを見て勘を用いて需要予測をしてみていただくと、各需要予測手法の特徴もつかみやすくなるかと思います。
なお、一部の需要予測手法では、実績値以外にもデータが必要となります。
その場合はその手法の説明のなかで足りないデータを追加して説明させていただきます。
需要予測手法:算術平均法
最もシンプルな方法。
過去データの平均値を、そのまま将来の予測に用いる方法です。
算術平均法の計算方法
{1期の実績値+2期の実績値 … +n期の実績値}/ n
算術平均法の具体例
前述のサンプルデータを用いると、2023年1月~3月の需要予測は以下のようになります。
2023年1月:103
2023年2月:103
2023年3月:103
ブレはありながらも、恒常的な状態が続くことが予想される場合には使用することができます。
需要予測手法:移動平均法
一定期間の需要量を計算し、その傾向から需要予測につなげます。
過去データの平均値を用いますが、対象となるデータは常に移動させる点が特徴です。
一定期間以前のデータは切り捨てて、対象期間では恒常的な動きが予測される場合に使用できます。
需要予測でも使用されることは多いですが、あくまでも過去の傾向分析にとどめて使用されることが多い手法でもあります。
移動平均法の計算方法
{X期の実績値+(X+1)期の実績値 … +(X+n)期の実績値}/ n
移動平均法の具体例
サンプルデータを用いると、2023年1月~3月の需要予測は以下のようになります。
2023年1月:103
2023年2月:103
2023年3月:103
ちなみに、「一定期間」に定めはありませんので、直近1年(12か月)のデータを用いると以下のようになります。
2023年1月:112
2023年2月:109
2023年3月:109
※なお、この例の2023年2月、3月のデータは、2023年1月、2月の予測値も使用した結果になります。翌期以降の計算処理をどうするかは様々な考え方があります。
需要予測手法:加重移動平均法
移動平均法の一種であり、古いデータの影響を少なく、最新のデータの影響を大きくした計算方法です。
直近で起きたイベントの影響を重視したい場合に使用されます。
加重移動平均法の計算方法
{(W0×X期の実績値)+(W1×(X+1)期の実績値)…+(Wn×(X+n)期の実績値)}/ (W0+W1…Wn)
Wn:加重係数(値は任意。ただし上記の場合W0からWnに向けて値を大きくする)
加重移動平均法の具体例
サンプルデータを用いると、2023年1月~3月の需要予測は以下のようになります。
なお、加重係数は、2020年1月を1、2月を2、…2022年12月を36としています。
2023年1月:106
2023年2月:106
2023年3月:107
加重係数の設定の仕方や、対象範囲の設定によっても値は変わってきます。
算術平均や移動平均の36か月のデータを使用した結果と比べて値が大きくなっており、2020年から2022年にかけて実績値が増加している(ように見える)ことが反映されています。
需要予測手法:指数平滑法
過去の実績値と予測値から新しい予測値を算出して需要を計算する方法。
より新しいデータに大きなウェイトを置く加重平均法の一つでもあります。
前回の実績値が予測値からどれほど外れたかを算出し、それに一定の係数αを掛けて得た修正値を、前回予測値に加算して今回の予測値を導き出します。
移動平均法と同様に使用される頻度が高い手法です。
指数平滑法の計算方法
α×前回実績値+(1-α)×前回予測値
同様に、以下の式でも求めることが可能です。
前回予測値+α×(前回実績値ー前回予測値)
α:0<α<1の範囲で設定。
1に近いほど直前値を重視、0に近いほど過去データを重視した結果になります。αを低く設定すると、特異な実績値があったときに影響が過度に出ることを防ぐことができます。
指数平滑法の具体例
α=0.5で計算すると以下のようになります。
なお、2020年1月の予測値を実績値と同じ値として、以降は指数平滑法にて計算しています。
予測値は以下のようになります。
年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2020年 | 120 | 120 | 115 | 113 | 106 | 98 | 97 | 88 | 84 | 80 | 90 | 90 |
2021年 | 100 | 115 | 112 | 109 | 104 | 100 | 97 | 91 | 88 | 89 | 95 | 100 |
2022年 | 107 | 124 | 119 | 115 | 110 | 100 | 100 | 95 | 95 | 97 | 101 | 113 |
その結果、以下のように予測されます。
2023年1月:139
2023年2月:139
2023年3月:139
なお、2月、3月の予測については前月の実績値がなく、予測値=実績値と扱ったため同値となっています。ちなみに、α=0.7とすると2023年1月は151、α=0.3とすると2023年1月は125となります。
需要予測手法:回帰分析法
因果関係がある数値同士の関係性を算出して、その結果をもとに需要を計算します。
回帰分析は1つの目的変数(今回の例では販売数量)を、説明変数と係数を用いて予測する手法です。
説明変数が1つであれば単回帰分析、複数であれば重回帰分析になります。
需要予測で回帰分析を用いるためには、因果関係のある要素を適切に選ぶことが重要です。
回帰分析法の計算方法
この記事では最もシンプルに、単回帰分析について解説します。
実業務ではエクセルを用いるほうが現実的であり、詳細な計算方法を説明しているとテーマとずれてしまいますのでここでは概要のみご説明します。
単回帰分析では、
y=aX+b
という一次方程式の形で表すために、a(傾き)とb(切片)を求めます。
その方法が、最小二乗法という方法です。
a = (XとYの共分散) / (Xの分散)
bはy=aX+bの式に、y=Yの平均値、x=Xの平均値、上記で求めたaを代入して求めます。
決定係数R2は、相関係数Rの2以上であり、どの程度説明変数が目的変数に強く影響しているかを示しています。1に近いほど影響が大きく、一概には言えませんが一般的にR2>0.5となるとある程度確からしいと評価されます。
回帰分析法の具体例
今回は月ごとの平均気温を説明変数として用います。
平均気温は以下の通りとし、将来の2023年1~3月の平均気温は例年同月の平均としています。
y = -1.8203X + 133.36
R2 = 0.5911
上記の式から以下のように予測されます。
2023年1月:123
2023年2月:119
2023年3月:114
2020~2022年の実績値が1月2月3月に向けて小さくなっていることを鑑みると、他の予測よりも確からしいともみることができます。
需要予測手法:時系列予測(ARIMAモデル)
「自己回帰和分移動平均モデル」とも呼ばれる手法。
過去データを用いて(回帰して)現在の値を予測するAR(自己回帰モデル)、過去の分析指標と実際の値の間にある誤差まで考慮して次のデータの推移を予想するMA(移動平均モデル)を組み合わせた分析手法です。
ARIMAモデルの計算方法
ARIMAモデルの計算についてはそれだけで記事1本分の内容があり、ここで説明するとテーマがずれてしまいますので割愛します。
具体的な計算方法については、今後別記事にて説明する予定ですのでそれまでお待ちください。
需要予測手法:ホルト・ウィンタース法
指数平滑法における時系列の変化にトレンドと季節変動を追加し、それぞれの指数平滑の重ね合わせを期待値として算出する方法。
時系列に傾向と季節性を考慮して予測することが可能です。
三重指数平滑法(triple exponential smoothing)とも呼ばれます。
ホルト・ウィンタース法の計算方法
ホルト・ウィンタース法の計算についてはそれだけで記事1本分の内容があり、ここで説明するとテーマがずれてしまいますので割愛します。
具体的な計算方法については、今後別記事にて説明する予定ですのでそれまでお待ちください。
まとめ
需要予測について、定義と目的から、以下に記載した需要予測手法の具体的な解説を行いました。
・算術平均法
・移動平均法
・加重移動平均法
・指数平滑法
・回帰分析法
・時系列予測(ARIMAモデル)
・ホルト・ウィンタース法
そのほかの需要予測手法や、一部詳細の説明を割愛したものについては、今後別の記事で解説する予定ですのでお待ちください。